■ ご挨拶 

2025年8月
関野 徹
大阪大学産業科学研究所 教授

 このたび2025年度よりニューセラミックス懇話会(New Ceramics Forum:NCF)第8代会長に就任いたしました関野です。NCFは長年にわたりセラミックスに関する科学と技術の振興について、産官学の多くの会員・企業を繋いだ取り組みを行うという大切な役割を果たしています。
 本会は産学官の密接な協力体制を基礎に、1972年(昭和47年)に大阪産業技術研究所(当時の大阪府立工業奨励館)の強力な支援のもとで設立された、半世紀を超える歴史をもつ団体です。この間、通算260回にもおよぶ研究会開催や、それぞれの時代を反映したテーマを取り上げ、産学の第一人者の方を講師としてお迎えして開催するニューセラミックスセミナーの実施、年末の特別講演会を実施しています。
 更に2003年度からはバイオ関連セラミックス分科会を設置し、バイオ・生体関連セラミックスに関する研究会活動や、特筆すべきは骨補填材料データベースの作成と公開など、学術としてのセラミックスに加え、産業応用・社会実装およびその普及を指向した独自の取り組みを行っています。
 加えて、最新のセラミックスに関する研究開発動向や、連載企画、各研究会報告などを載せた会誌「ニューセラミックスレター」を、「読んで役立つ」、「残して価値ある」ものとして年3巻のペースで発刊しています。2012年(第46巻)からは、科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォーム「科学技術情報発信・流通総合システム(J-Stage)」(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/newceramicsletter/-char/ja)に掲載しており、主要記事はDOIを付したフリーアクセスでどなたでも読むことができます。

 さて、近年では研究者人口の横ばいや多くの研究領域形成とそれに合わせた学会コミュニティーの設置に加え、社会・経済情勢および事業内容の変化に合わせた学会活動への参加整理が多くの学協会でも課題となっています。大学や研究機関の皆さまは、多くの学協会に参加しその貴重な時間を学術・技術振興に充てている方も多いと思います。また、国際的な情勢を鑑みると、政治・文化圏の分極化や国際紛争およびこれにまつわる経済的な不透明さが益々高まる中、地球温暖化や環境問題などは、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実効的推進と連動して、その対応が待ったなしのところまで来ています。
 既に今世紀の四分の一が過ぎようとしている今日、これら大きな流れの中でニューセラミックス懇話会では何ができるでしょうか。国際的な動向を大きく変えようとするには組織不足・力不足であることは否めません。しかし、社会や産業構造がどのようなものであれ、どのように変わっても、社会を支える力は個々の人間であり、同じ目的を持った人が集まる組織であることは疑いありません。材料およびその技術が社会を支えていること、それが社会を変えうる事を鑑みた場合、産学官の密接な協力体制を基礎に、セラミックスに関する技術の向上と普及展開を理念に設置された本懇話会に求められるのは、会員の皆さまが社会的課題の解決や関連産業の進展に寄与できるような、もしくは課題解決の糸口を見いだして頂けるような活動をすることであり、50年以上の歴史を踏まえ、次の50年間へ向けて進むにあたり重要なことであると考えます。

 このたびの会長就任にあたり、これまでの活動を継承することに加え、ここで述べたような社会の変革やセラミックスに求められる役割とその展開を考慮しながら、「懇話会に参加していて良かった」、「ためになった」、「将来の事業展開に役立つものが得られた」など、会員の皆さまの満足度が向上するような活動を進めたいと考えます。その上で、本会の活動がきっかけとなり、セラミックスに新たな価値を与え、次のセラミックスイノベーションへと繋げることで、健康で持続的社会の発展に寄与する、これが本会の目指すところです。
 実現するのは簡単なことではありません。一歩ずつ進むしかありません。このために、◆研究会などを通じた情報発進・共有・交換の推進、◆多様な方々が交流・協働できるためのしくみとその活動や、◆技術的課題解決のための産官学マッチングサポート、◆中長期的な視野に立ったセラミックス材料とその周辺技術・産業の将来ビジョンを議論して共有する取り組み、を進めたいと考えます。さらに、◆関連する多くの学協会や団体・機関との密な連携に基づく活動の展開ができればとも考えます。こうした活動にご賛同頂ける、セラミックスはもちろんのこと、幅広いコミュニティーからの研究者・技術者の皆さまのご参加を心より歓迎いたします。
 本会の活動・取り組みを通じ、セラミックス科学技術の発展に加え、社会的な質(QOS:Quality of Society)の向上と皆さまの研究・開発・事業の発展にニューセラミックス懇話会が少しでもお役に立つよう、会長として取り組んで参ります。会員各位・企業各社の変わらぬご支援と力強い未来志向のご協力を賜りたくお願い申し上げます。